遺留分の放棄

遺留分の放棄


大前提として遺留分放棄は遺言があるときに初めて意味がある手続きであるということです。
被相続人が生前に遺言を書かないまま亡くなった時は,法定相続になりますので、遺留分放棄をした人も,法定相続権が与えられます(この辺のところが理解するのが難しいかもしれません)。
つまり相続人が配偶者とお子さん1だけ(長男・次男)だとすれば,2分の1ずつになります。


遺留分は、相続の開始前後で放棄することができます。
ただし、相続開始前の遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可が必要となります。
これに対して、相続開始後の遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可は不要です。


遺留分放棄の効果


相続人の生活を保障するために最低限の相続分の割合である遺留分を侵害された相続人は、遺留分減殺請求をすることができます。
しかし、遺留分の放棄をすると、被相続人が遺留分を侵害する遺言をしても、遺留分減殺請求をすることができなくなります。

もっとも、相続開始後は、遺留分の放棄という積極的な行為をしなくても、遺留分減殺請求権を行使しなければ、遺留分を放棄したのと同じことになります。
したがって、遺留分の放棄という行為が問題になるのは、相続開始前であるといえます。


共同相続人の遺留分放棄は他の影響しない


共同相続人の一人が遺留分を放棄した場合、他の共同相続人に影響を及ぼしません(民法第1043条第2項)

たとえば、夫が死亡して妻と子A、Bが相続人である場合は、それぞれの遺留分は妻1/4、子A、Bは1/8ずつになります。
そして、仮にAが遺留分を放棄すると、その分妻とBの遺留分が増えそうですが、妻1/4、B1/8という遺留分の割合は変わりません。

相続の放棄とは違います。

遺留分を放棄しても、相続を放棄したことにはなりません。
したがって、遺留分を放棄した相続人も相続が開始すれば、相続人になります。

遺留分を放棄しても、被相続人が遺言書を作成することなく死亡した場合は、遺留分を放棄しても相続人として遺産分割協議の当事者になります。
また、相続人である以上、被相続人が借金等の債務を残した場合は、法定相続に従って承継することになります。これを避けるには、あらためて相続の放棄をする必要があります。


相続開始前の遺留分の放棄


相続開始前の遺留分の放棄には、家庭裁判所の許可が必要となります。

家庭裁判所の許可を必要とするのは、遺留分の放棄を自由に認めると、相続人が被相続人や他の相続人の圧力により、遺留分を放棄することが起こりうるなど、遺留分を有する相続人の利益を害することがあるからです。


相続開始前の遺留分の放棄の手続き


相続開始前に遺留分の放棄をする場合、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺留分放棄の許可の申立てをしなければなりません。


家庭裁判所が遺留分放棄の事前許可をする3要件


1.遺留分放棄をする者の自由な意思に基づくこと
2.遺留分放棄をした者が、遺留分相当の対価を得ていて、放棄しても公平であること
3.遺留分放棄に合理性(必要性・妥当性)があること

遺留分放棄の撤回


手続きとしては,以下の2つのパターンがあります。
1 非訟事件手続法19条1項(家事審判法7条)による裁判所の職権発動
2 事情変更を理由とする取消(東京家裁昭和44年10月23日)

【非訟事件手続法19条】
裁判所ハ裁判ヲ為シタル後其裁判ヲ不当ト認ムルトキハ之ヲ取消シ又ハ変更スルコトヲ得
2 申立ニ因リテノミ裁判ヲ為スヘキ場合ニ於テ申立ヲ却下シタル裁判ハ申立ニ因ルニ非サレハ之ヲ取消シ又ハ変更スルコトヲ得ス
3 即時抗告ヲ以テ不服ヲ申立ツルコトヲ得ル裁判ハ之ヲ取消シ又ハ変更スルコトヲ得ス

【遺留分放棄の許可取消基準】

→取消をしないと不合理な場合だけ取消が認められます。

裁判所は1度遺留分放棄の許可をした以上,容易に撤回を認めない,というスタンスです(当然ですね)。
少なくとも,単に(事情に変化はないのに)「考えが変わった」というだけでは取消は認められません。
簡単に言えば,「遺留分放棄をする前提として重要な事情」が変わった(なくなった)という場合に取消が認められます。



遺留分放棄の取り消しを認めた事例
・東京家庭裁判所昭和44年10月23日
養子縁組が前提→離縁した
・松江家庭裁判所昭和47年7月24日
子の1人が家業である農業を継ぐことが前提→継がないで嫁いだ
・東京家庭裁判所昭和54年3月28日
兄弟円満だったので,好意で譲歩→対立が勃発

遺留分放棄の取り消しを認めた事例
・東京高等裁判所昭和58年9月5日
多額の保証債務を負っていたので,強制執行を避ける目的があった→保証債務が消滅(完済)した
・東京家庭裁判所平成2年2月13日
大きな「事情の変化」なし



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