遺言作成時の注意事項

遺言作成時の注意事項

遺言を作成するときはいくつか注意しなければならないことがあります。遺言は民法に定められた方式にのっとって作らなければ無効となる場合があります。


自筆証書遺言

自筆証書遺言を作ろうと思ったら、以下のことは漏らさず記載してください。
全文を自分の直筆で書く
日付を書く
署名押印する
なお、加筆、削除、変更についても「二重線で消して、署名押印するなど」の厳格なルールがあります。もし、変更箇所が増えてきたら、改めて最初から作り直すことをおすすめします。


公正証書遺言

公正証書遺言は、法律のプロである公証人が作成しますので、方式や内容が法的に無効になる心配はまずありません。しかし、自筆証書遺言にはない要件がありますので、その点には注意してください。
2人以上の証人を用意する
証人は誰でもなれるわけではありません。

①未成年
②推定相続人、受遺者、これらの配偶者及び直系血族
③公証人の配偶者、4親等以内の親族、公証役場の書記や使用人

これらの者はなることができません。証人には遺言の内容が知られることになりますので、信頼のおける人物に依頼してください。遺言作成をサポートしている司法書士などに依頼する方法もありますし、公証役場で紹介してもらうこともできます。
公証役場に出向く
公正証書遺言は実際の作成は公証人がしますが、内容を確認し、署名押印するのは本人です。したがって、最低でも1回は公証役場に出向く必要があります。ただ、体が不自由で外出できないとか、入院中であるような場合は、公証人が有料で出張することもできます。

全ての方式の遺言についての注意事項



以下は、すべての遺言に共通する事項です。
・遺留分に注意する
遺言を残せば遺言者の意思は最大限尊重されます。だからといって、すべてが遺言のとおりになるわけではありません。相続人には遺留分があり、遺言者が特定の人間にすべての財産を与えると書いたとしても、相続人は「法定相続分の2分の1」をもらえる権利を有しています。ですから、遺留分を無視した内容の遺言はトラブルになりやすいので、慎重に書くことをおすすめします。
・遺言後に増えた財産の行方を指定する
遺言書を書いてから死亡するまでに期間があるような場合、遺言書に記載された財産とは別に財産が増える可能性があります。すると、その財産については遺言書で触れられていないので、その財産を誰がもらうかで相続人間で紛争が起きることもあります。そのような場合に備えて、遺言者には、財産相続の方法について一通り記載した後で、「その他一切の財産は○○に相続させる」の文言を入れておくことをおすすめします。
・予備的遺言をつくる
高齢の夫婦間では有効です。高齢の配偶者に財産を相続させる場合に、相続が発生したときには既に配偶者が死亡していて、遺言を実行できないという事態も考えられます。
このような場合に備えてあらかじめ遺言書の中で、「○○は妻△△に相続させる。もし、△△が亡くなっている場合は、長男××に相続させる」というように、予備的に別の人間に相続させるように記載しておくとよいです。
・未登記の不動産がないか調査する
被相続人の所有財産の中には、自身も相続や遺贈によって取得した不動産があることが多いと思います。相続のときにきちんと所有権移転の登記がなされているなら問題ないのですが、中には手続きが面倒ということで登記を怠っているケースもあります。これを放置しておくと、今度は自分の相続のときに、知らない第三者が不動産の所有権を主張してきて、相続人とトラブルになるなんてこともありえます。不動産の名義が自分でないことがわかったら、すみやかに所有権移転登記をしておきましょう。
なお、登記は当事務所が専門に行っています。

・「相続させる」文言を使う
財産を譲られる者が相続人の場合は「○○を『相続させる』」と書くことをおすすめします。これは、特に不動産の場合に所有権移転登記の理由が「相続」と判断され、「遺贈」と判断される場合よりも登録免許税が安くなるというメリットがあります。
ただ、相続人以外に譲る場合にいくら「相続させる」と書いても、「遺贈」と判断されます。その場合は、「○○を『遺贈する』」と書いてください。

共同遺言はしない
日本では複数の人間が共同して1つの遺言をつくることを認めていません。したがって、夫婦が一緒に遺言をつくったとしても無効となります。
・借金についても記載する
借金などの負債は原則遺産分割の対象とはならず、相続人が法定相続分でそれぞれ承継することになります。したがって、遺言の中で特定の相続人に相続させると書いても、そのとおりにはなりません。
それでもなお、書いたほうがいいのは、相続開始から3ヶ月を経過してからの債務返済請求を防ぐためです。相続手続では相続開始から3ヶ月以内(熟慮期間)に単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかをしなければなりません。債権者の中には、熟慮期間の間は連絡をして来ず、熟慮期間を過ぎてから莫大な借金の返済を求めてくる不届き者もいます。相続人としては相続放棄をしようと思っても、熟慮期間を過ぎているため、もう手続きができずに借金を相続しなければならないという事態も起こりえます。そのような場合に備えて、あらかじめ遺言の中で負債の存在を示しておけば、相続人が不要なトラブルに巻き込まれずにすみます。
実際は家庭裁判所に申し立てれば、熟慮期間経過後の相続放棄も認められるケースもありますが、すべて認められるわけではありませんので、早めの手続きをお勧めします。

遺言を撤回したい場合

遺言書を書いたけど、後日気が変わったり、相続人や財産の状況に変化が生じたりすることもあると思います。そんなときは遺言書を撤回することができます。遺言者が存命中であればいつでも自由に撤回したり、変更することができます。
ただ、遺言の取消しは、遺言の方式で行うこととされており、前の遺言書を取り消す旨を記載した新しい遺言書を作成することを求められます。しかし、原則に従うと結構面倒ですので、実際はもっと簡単な方法で遺言書の撤回が行われています。

遺言書を破棄する

遺言書を取り消すのなら全部破ってしまうのが一番簡単です。全部ではなく一部だけ取り消したい場合は文字を塗りつぶすのでも遺言を取り消したい意思があったとみなされます。しかし、公正証書遺言の場合は、遺言の原本が公証役場に保管されていますので、公証役場に連絡して撤回の相談をしてください。

前の内容と矛盾する遺言書を書く

遺言が複数ある場合は日付が一番新しいものを優先します。したがって、撤回の意思表示をせずに、前の遺言書とは矛盾する内容の遺言書を新たに書くと、前の遺言書を取り消したことになります。前の遺言書と矛盾しない内容はそのまま有効です。
なお、これら前後の遺言書は同じ方式でなければならないという規定はなく、公正証書遺言を自筆証書遺言で取り消す、またはその逆も可能です。

目的の財産を処分する

遺言書の中で、財産を相続人や受遺者に相続させる、あるいは遺贈すると書いたとしても、その目的の財産を生前に売却すると、遺言を撤回したものとみなされます。売却に限らず廃棄なども同様です。
ただ、相続人間のトラブルを予防するためにも、費用負担の少ない自筆証書遺言はやはり初めから書き直すことをおすすめします。

遺言書作成後財産が増えたとき

作成後に財産が増えたときは、新たに遺言を作らなければならない場合と、その必要がない場合があります(この問題は自筆証書遺言、公正証書遺言どちらにも当てはまります)。 
例えば、ある相続人に「全財産を相続させる」とか、「それ以外の財産を全て相続させる」との遺言があるときは、その後に増えた財産もその人に相続させたいのであれば、遺言を書き直す必要はありません。
また、複数の相続人の相続分を、均等割にしたとか、持分で決めた場合で、新財産も同じように分けたい場合も同様です。 しかし上記以外の場合は、遺言の作り直しを検討したほうがよいと思います。いずれにしても、一旦遺言を書いてしまえば、その後の変化に対応できなくなるというようなことではないのです。思い立ったが吉日です。先々の不安を解消するために、早めに遺言を作りましょう。

なお作り直しが必要か否かの判断について、当事務所にご相談いただくことも可能です。

当事務所は相続・遺言・遺産分割・家庭裁判所への申立書の作成等多数の家事事件を取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。