遺産分割

遺産分割の方法

遺産分割の準備が終わりましたら、いよいよ実際に遺産分割の段階に入ります。

なお遺産分割には4つの形態があります。

1.指定分割

被相続人は遺言というかたちで、自分の意思で相続分を決めることができます。また、信頼できる第三者に相続分を決めてくれるよう委託することも可能です。このように遺言に指定された方法にしたがって遺産を分割することを指定分割といいます。
指定分割は法定相続分よりも優先されますが、遺留分を侵害するような指定は認められません。

なお、相続人全員(遺贈があれば受遺者を含みます)の同意があれば、遺言で指定された分割方法と異なる遺産分割も可能です。
ただし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の同意をとる必要があります。遺言執行者の同意をとれれば、相続人全員の同意があれば指定された割合と異なる分割も認められるとした判例もあります。

2.協議分割

遺言による分割の指定がない場合は、相続人全員の話し合いにより遺産を分割します。これが一般的にいうところの遺産分割協議です。遺産分割協議では、民法で定められた法定相続分が基準になると思いますが、それとは異なる割合で分割することも可能です。その根拠は民法906条「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」という条文です。つまり、形式的な遺産分割で相続人の誰かが窮地に立つことがないよう、他の相続人も配慮しようじゃないかという精神です。
このように、遺産分割は遺産や相続人の具体的状況を考慮して行われますので、実際の取得割合は各相続人が自由に決めてよいのです。その割合が、民法90条の公序良俗に違反していたり、権利の濫用その他錯誤、詐欺、脅迫などの無効、取消原因にあたらない限り、有効となります。



3.調停分割

ただ、遺産相続では大きな額の資産が対象になることが多く、相続人間で何度話し合ってもまとまらないとか話し合いに参加することを拒否する相続人がいるなど、協議分割が無理な場合もあります。
そのようなときは家庭裁判所の調停を利用しましょう。調停は、相続人のうちの1人又は数人が協議を拒んでいる相続人等を相手方として申し立てます。裁判所では審判官1人と民間から選ばれた2人以上の調停委員で調停委員会が構成され、相続の話し合いに立ち会います。そうです、調停はあくまで相続人間の話し合いの延長に過ぎません。場所が裁判所の中、第三者が立ち会うという点が違うだけです。したがって、調停委員会が分割方法を「こうしなさい」と強制することはありません。「こうしたらいかがですか?」と勧めるだけです。
もし話し合いがまとまったとすると、調停調書というものを裁判所が作成します。これは単に私人間で協議した場合と異なり、確定判決と同一の効力を有し、その内容が法律による強制力を持つので、より確実に遺産を分割することができます。ただ、調停でもまとまらないときはまとまりません。

4.審判分割

調停分割でもまとまらない場合は、自動的に審判の手続きに移行します。具体的には審判官が、民法906条にある基準に基づき分割方法を決め、審判することになります。審判は調停と異なり強制力を持ちますのでより強力ですが、一方で裁判所の調査官が事実関係を調査したり、財産の評価額を鑑定することが多く、費用や時間がかかることも覚悟しておかなければなりません。もし、審判の内容に不服がある場合には、2週間以内であれば家庭裁判所又は高等裁判所に不服を申し立てることができ、その後は高等裁判所で訴訟にすることができます(即時抗告の申立て)

分け方

遺産分割では不動産や事業用資産など分割しにくい財産を、いかに公平にみんなが納得するかたちで分けるかがポイントです。遺産分割では主に4つの方法がありますので、これらを上手く組み合わせながら、相続分に合うように分割します。
共有分割現物分割換価分割代償分割
方法複数の相続人で持分を定め、共有する個々の財産を形を変えずに各相続人に分配する財産を売却し金銭に換え、各相続人に分配する特定の相続人に財産を分配し、その相続人が他の相続人に対し、相続分に見合う金銭を支払う
長所・公平な分配が可能
・財産の現物を残すことが可能
・わかりやすい
・財産の現物を残すことが可能
・わかりやすい
・公平な分配が可能
・公平な分配が可能
・財産の細分化を防止できる
短所・利用、処分の面で制約がある
・今後相続を繰り返すうちに権利関係が複雑になる可能性がある
・相続人間の公平性が保ちにくい・財産の現物が残らない
・財産の売却に時間と費用がかかる
・代償する義務を負う相続人に資力を要する
・代償義務を履行しない相続人がいる

債務(借金等)は分割するの?

プラスの財産の分割については上の表のようになっています。一方で借金など債務はどのように分割するのでしょうか?原則として、債務は遺産分割の対象ではありません。
相続放棄や限定承認をしない限り(つまり単純承認した場合)、債務も当然法定相続分に従って相続されるとされています。なぜなら、債務に関して、相続人間で定めた内容で相続が行われることが認められると、相続人が支払能力のない相続人に債務を集中させ、残りの相続人は資産だけ相続するというような、債権者の権利を侵害するような分割方法が行われる可能性があるからです。したがって、債務の相続に関しての取り決めは相続人間でしか通用しません。

分割したいのであれば

このような場合は、まずは債権者と相続について相談し、債務の支払いについて決める必要があります。具体的には、相続人のうち資力がある者が債務をすべて引き受けるというような免責的債務引受契約を債権者、債務を引き受ける相続人、債務を免除される相続人の間で交わす方法などがあります。
いずれにせよ債権者とよく相談することが重要です。

当事務所は相続・遺言・遺産分割・家庭裁判所への申立書の作成等多数の家事事件を取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。