相続対策-生前贈与

生前贈与の活用

贈与とは、贈与者と受贈者が合意のもとに財産を無償で与える契約です。相続税対策を講じるうえで、贈与税の知識があるかないかでは大きく違ってきます。なぜなら贈与税は相続税を補完する税であり、互いに深く関わっているからです。

相続税は被相続人が亡くなったときに所有している財産が対象になるため、死亡時の財産の多ければ多いほど高くなります。それならと、自分の生前に子らにせっせと贈与を繰り返し、死亡するときには財産がなくなっているようにすれば相続税を納めずに済むということになります。このようなやり方を認めていては国の税収が落ち込んでしまいます。このような租税回避を牽制する意味で、贈与には相続税よりも高い税率の税金が課されています。

確かに税率が高いという点だけを見れば贈与よりも相続のほうが有利といえますが、相続は一時に集中して課税されるため、遺産の多い人にとっては相当の税負担になります。その点贈与には基礎控除(年間110万円)特例があり、これらを上手く活用すれば税負担の軽減を図ることが可能です。ここでは基礎控除を使った贈与税の軽減策をご紹介します。
贈与税には、暦年課税と相続時精算課税の2通りの課税方式があり、基礎控除は暦年課税が対象になります。暦年課税とは、その人が1年間(1/1~12/31)に贈与された財産の価額をもとに、10%~50%の税率で課税される方式です。この暦年課税には110万円の基礎控除がありますので、1年間の贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからなくなります。また、税務署への申告も要りません。

「なんだ、110万円ぐらいなら大した効果はないなあ」と思う方もいらっしゃるでしょうが、この110万円が5年10年と長期にわたって活用できればそれなりの効果があります。子や孫が10人もいれば1年で1100万円、5年で1億1000万円もの財産を無税で贈与できてしまいます。まさに、ちりも積もれば山となるです(私にとってはちりなんてとんでもない大金ですが)。

このように生前贈与は税の軽減に有効な手段といえますが、活用する場合は以下のポイントに注意してください。

早めに実行に移す

生前にできるだけ多くの財産を渡すためには、早めに贈与を実行に移すことが肝心です。これは、相続開始前3年以内における相続人に対する贈与は、相続税の課税対象(生前贈与加算の適用)になるからです。
ただし、相続開始前3年以内の贈与であっても、受贈者が相続人以外(例えば相続人の配偶者や子など)である場合は、これらの物は相続人には該当しませんので、その人が遺贈により財産を取得しなければ適用から除外されます。これは、結果的に相続人の財産形成に役立つことになります。


贈与契約書の作成

被相続人から相続人への財産移転に明確な贈与の意思があるかどうかを判定する1つの目安として贈与契約書があるかどうかもポイントになります。贈与契約書は、作成義務はありませんが、当事者の意思確認や税務調査に対する証拠資料として残すためにも作成すべきと考えます。
贈与契約書を作成したら、それが事後的に作成されたものと思われないようにするために、公証役場で確定日付を取っておくことをおすすめします。

贈与財産を変える

贈与する財産の種類や金額、贈与の時期はなるべく毎年変更するようにしてください。これは、毎年、現金を一定期間、同時期に同額を贈与するような契約は、贈与の開始時にすべての金額の贈与の意思があったとみなされ、一括して贈与税が課せられることがあるからです。なお、1つ前で述べました贈与契約書についても毎年作成されるほうがよろしいでしょう。

基礎控除を超える贈与を行う

税務署側に贈与の意思を認識してもらうためにも、基礎控除の限度額を超える贈与を行い、贈与税の申告書を提出し、少しでも納税を行うことをおすすめします。これは毎年でなくてもかまいません。

贈与の証拠を作る

贈与の実行に際しては、直接手渡しは避け、自分の口座から受贈者の口座に振り込むなどして贈与の証拠を作るようにしてください。
なお受贈者は、贈与を受けた財産は必ず自分で管理してください。贈与者が管理しているようであれば、贈与者の財産とみなされて、死亡時に相続財産としてカウントされてしまう恐れがあります。


受贈者の意思能力

贈与は契約です。契約をするにはお互いに意思能力が必要です。受贈者が未成年者などの場合、最低でも贈与を受けることが認識できるだけの能力が必要になってきます。一般的には10歳前後であればその程度の判断能力を備えていると思われますが、少なくとも受贈者本人が贈与の事実を知らなかったということがないようにだけはする必要があります。
なお、贈与税は受贈者に申告と納付の義務がありますので、受贈者が未成年であっても申告や納付の手続きをするのが原則です。ただし、贈与者が代わりに納税することもできます。この場合は未成年者の財産の中から納付する資金を調達しなければなりません。贈与者の財産から調達した場合、それも贈与とみなされる可能性があるからです。
この他、将来価値が上がりそうなものから贈与することも節税対策の1つだと思います。なお、税金のことに関しては弊所の業務の範囲を超えますので、ご相談については提携の税理士をご紹介します。お気軽にお問合わせください。


暦年課税の計算を税率

暦年課税の計算と税率は以下のとおりです。
(1年間の贈与財産の合計額―基礎控除額110万円)×  速算表の税率―速算表の控除額=贈与税額
速算表
基礎控除後の課税価格
税率
控除額
200万円以下
10%
200万円超   300万円以下
15%
10万円
300万円超   400万円以下
20%
25万円
400万円超   600万円以下
30%
65万円
600万円超 1,000万円以下
40%
125万円
1,000万円超
50%
225万円
(例)1年間の贈与額合計が500万円だったとすると、

(500万円ー110万円)×20%-25万円=
390万円×20%-25万円=53万円
納税しなければならない贈与税は53万円になります。

当事務所は相続・遺言・遺産分割・家庭裁判所への申立書の作成等多数の家事事件を取り扱っておりますので、お気軽にご相談ください。