遺言執行者

遺言執行者とは

遺言というものは、その内容が実現されなければ残した意味がありません。
遺言の内容を実現させるためには手続が必要ですが、亡くなった遺言者ができるわけもなく、誰かが遺言者に代わって実現しなければなりません。このように遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の移転の実現及びそれに関連する必要な事務を行う者を「遺言執行者」といいます。

遺言でできることを遺言事項といいますが、未成年者の後見人の指定、後見監督人の指定、相続分の指定またはその委託、遺産分割の禁止、相続人間の担保責任の指定、遺言執行者の指定またはその委託、遺留分減殺の制限については、遺言の効力発生時(遺言者の死亡時)にその内容が実現するので、あらためて遺言の内容を実行に移す手続は不要です。しかし、相続人の廃除またはその取消し、認知、一般社団法人の設立については必ず遺言執行者による手続必要です。

遺言執行者には誰でもなれるというわけではなく、未成年者(婚姻による成年擬制は別)及び破産者はなることができません。一方で、自然人に限らず法人もなることができるし、複数の者でもなることができます。また、相続人がなれないという規定もありませんので、財産を受け取る相続人も遺言執行者になることができます。遺言執行者が複数の場合は、遺言者が遺言に別段の意思を表示しているとき以外は、その過半数で決します。
なお、遺言執行者は相続人の代理人とみなされています(民法1015条)。しかし、だからといって必ずしも相続人の利益のためにのみ行為するものではありません。

遺言執行者は、遺言者が遺言の中で指定することができますし、誰かに指定することを委託することもできます。また、利害関係人(相続人、受遺者、相続債権者、受遺者の債権者など)が家庭裁判所に申し立てて指定することもできます。

すべての遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任することができます。辞任の申立ては遺言執行者自らがしなければなりません。
逆に利害関係人のほうから遺言執行者を解任することもできます。その場合は、遺言執行者が任務を怠ったりと正当な事由があり、家庭裁判所に解任の請求をして、許可を得て初めて可能になります。

遺言執行者を指定するメリット



① 相続手続については遺言執行者が単独で行う権限があるので、相続人が勝手に財産を処分したり、手続を妨害したりするような行為を防ぐことができる。

② 遺言執行者は相続人全員の代理人として手続を実行するので、本来は相続人全員の署名押印を要するような行為も遺言執行者単独で処理できるなど、大幅に手間を短縮できる。

遺言執行者の権利・義務


遺言執行者は民法における委任者の規定が準用されますので、次のような義務を負うとされています。

①善管注意義務
委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって遺言執行に必要な行為をする義務を負います。
②報告義務
遺言執行者は相続人の請求があるときはいつでも遺言執行状況を報告しなければならず、執行終了後は遅滞なくその結果を報告しなければなりません。
③受取物引渡し等の義務
遺言執行者は遺言執行にあたって受け取った金銭その他の物を相続人に引き渡さなければなりません。また、遺言執行者が相続人のために遺言執行者の名をもって取得した権利があれば、これを相続人に移転しなければなりません。
④金銭消費の責任
遺言執行者は相続人に引き渡さなければならない金銭等を自分のために消費してしまったたきは、その消費した日以後の利息を支払わなければなりません(民事法定利率は年5%)。なお、損害が発生していれば、賠償する責任を負います。

一方で、遺言執行者は遺言執行をするのに必要であるとして自ら支出した費用は、相続人に対してその費用及び支出の日以後における利息の償還を求めることができます。また、債務を負担したときは、相続人にその弁済を(弁済期に達していないときは相当の担保の提供を)要求できます。さらに、遺言執行の中で遺言執行者が自分に過失なく損害を受けた場合は、相続人に対して賠償請求できます。

遺言執行者の報酬は、民法の委任の規定が準用されるため、原則無償ですが、遺言者が遺言の中で報酬を定めた場合はそれに従います。また、家庭裁判所が選任した遺言執行者の場合は、遺言執行者本人が裁判所に報酬をくれるよう申立てをしなければなりません。報酬の請求時期は原則執行事務終了後ですが、執行に期間を設定したような場合はその期間経過後に請求することができます。

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